ビルのヒット曲?

今週末、またピアノでも練習しに行きたいなーと思って、
とある曲のコードをネット上で探してみたら、
楽譜をPDF形式のファイルにしたものがありました。


びっくり。良いのか!?


Bill's Hit Tune
http://www.antoine-herve.com/partitions/billht.pdf



っていうか私はちゃっかり利用させてもらうわけだが。




これはジャズ・ピアニストのビル・エヴァンス(1929-1980)
という人の曲です。
私はこの曲(というか演奏が)すごく好きで、
へこんでる時に聴きたい曲No.1です。



超熱い、壮絶な演奏ではあるんですが、
でも私は聞くといつもちょっと困惑するというか、
複雑な気持ちもあるんです。



Highlights from Turn Out the S

Highlights from Turn Out the S


確かこのCDに収録されてたはず。
期待の新人のベーシストを見つけたので、
新しいバンドを結成して再出発しようとした、
そのお披露目のライブだったと私は記憶しています。



なんで複雑な気分になるかというと、
このピアニストのビル・エヴァンスさん(故人)って、
この晩年の演奏を聴くまで、繊細そのもので、
抑制されたセンチメンタリズムの極北、
というイメージを私は持ってたんです。
(もちろんそれだけじゃありませんが)



こういうイメージ↓


Explorations

Explorations



なんですけど、この「Bill's Hit Tune」という
死ぬ直前のライブ録音だと、なんというか
コテコテで激しすぎる演奏をしてるんです。



演奏も、似た形の旋律をちょっとずつ
音を上げていって盛り上げていくとか、
かなりベタなことをしています。
切ないとか感傷にひたるとかを通り越して、
もういくとこまでいくぜ! という感じ。




初めて聴いたとき、
「えー、こんなのビル・エヴァンスじゃないよ!」
と思って、私は悲しい気分になりました。
確かに熱い演奏だけど、こんなコテコテな演奏して、
客を盛り上げるためのサービスでそこまでしなきゃいけないほど
晩年には人気無くなっちゃってたのか? 
とか私は思ってしまいました。



で、まあ「なぜ、あの繊細さの極みであったビル・エヴァンス
がこれを……」という疑問さえ横に置いておけば
超かっこいい曲であることは確かなので、
私は何度も聴きまくりました。



そのうちに、「きっとビル・エヴァンスは、晩年に
最後の力を振り絞って再出発しようとしたんだろうなー。
だから、今までの自分の持ち味とか武器をいったん全部捨てて、
生まれ変わろうとしたんだろうな」と思うようになりました。
晩年には麻薬とかアルコールでボロボロだったらしいので。



で、そんなふうに勝手に同情してみると、
また悲壮感があって、私はこの曲が
すごく好きになってしまいました。



ただ、以前から、この曲名の「Bill's Hit Tune」
っていうのが、なんなんだろうなこれは、
と私はずっと気になっていたんです。
直訳したら、「ビルのヒット曲」でしょうか?
変な曲名。



で、このまえこの曲を自分でも弾いてみてえなーと思って
コードを採ってみたとき、私は驚愕しました。



私の取ったコードでは、イ短調(key=A minor)に直すとこんな感じでした。




Dm7  |  G7  |  C major 7  |  F major 7  |

Bm7 (-5)   |  E7  |  Am7  |  A7  ||



これは、完全4度の音程の関係で、どんどん
次のコードに上がっていくという、
ポピュラー音楽では典型的な、
無敵のコード進行の一つだと私は思います。
いわゆる「ツー・ファイブ」というやつでしょうか。
私は音楽理論はちょっとかじった程度なので
自信はありませんが……。
F → B の音程はなんなんだろう。


で、このコード進行で私が真っ先に思いつく曲って、
シャンソンとかジャズのスタンダードの
「枯葉(Autumn Leaves)」という曲です。
(「枯葉」の場合、通常のキーはト短調ですが)



そして、たくさんのジャズ・ミュージシャンが
この「枯葉」の曲を演奏してきましたが、
最も有名で、「初めて聴くジャズ、ベストコレクション」
みたいなのによく入ってそうな(調べてませんが)
演奏は、ビル・エヴァンスの演奏なんです。
ビル・エヴァンスといえば、まずはこの曲」みたいな曲です。
(このCDに入ってます ↓)



Portrait in Jazz

Portrait in Jazz



だんだん書いていて、われながら
「なんで俺こんなに語ってんだ?」
という気になってきましたが、
このCDに収められている演奏は、
スコット・ラファロという天才ベーシストとの
掛け合いとかが、歴史に残る名演奏ということになっております。



でもこの演奏の直後にスコット・ラファロさんは
交通事故で死んじゃって、ビル・エヴァンス
絶望するんです。



それから長い間、ビル・エヴァンスはずっと
がんばってはいたんですが、「もうあの
天才スコット・ラファロとの共演みたいな
名コンビプレイは生まれないだろう」と、
言われていました。(らしい)



そして、ビル・エヴァンスのバンドに入るベーシストも、常に
「まあ、ビルとスコット・ラファロとの伝説コンビの再現は
到底期待できないな」と必ず比較され、酷評されるという
厳しいポジションになってしまったのでした(らしい)。



まあそんなこんなで、とりあえず結論を書きますと、
「Bill's Hit Tune(ビルのヒット曲)」という曲名は、
自分の過去の最大のヒット曲である「枯葉」のことを指してるんでは?
と私はコードを採ったとき思ったのでした。
「枯葉」と同じコードの上で、それをまったく新しい曲に
作り変えてしまうという挑戦だったのでは……?



でも、再出発を賭けた、新人のベーシストのお披露目会での、
今までの自分の名声を捨てた渾身の演奏の曲名が、
過去の自分への皮肉だとは、そんなのは悲しすぎるなー。
昔の名前で出ています〜」みたいで、すごい自虐的。
とか思って、この曲には私は都合3回泣かされてるのでした。



で、最初に戻って、こちらのネット上にあった楽譜なんですが、
これを見たら私のとったコードとは結構違ってました。
まあ、9〜16小節目のコード進行はツー・ファイブが多用されてて、
私の案と少しは似てますが。



これを見て、じゃあ私の「Bill's Hit Tune = 枯葉」仮説は
なんだったんだー、と私はずっこけました。
なんか一人でストーリーをでっち上げて、
勝手に感傷にひたってただけか。
お恥ずかしい。



まあ、自分で勝手にストーリーを作って感動できるっていうのも、
安上がりで良いかもしれんが……。
我ながらお得な性格してるなー。