「需給の逼迫」って?

日経新聞でよく出てくる記述に、
「需給が逼迫ひっぱくして価格が上昇した」
という説明があります。
私はしばらく前からこの説明はおかしいんじゃないかと
思って気になっています。



いったい「需給の逼迫」とは何を指しているんだろう?
広辞苑」で「逼迫」を引いたところ、次の様にありました。


ひっぱく【逼迫】


(1)苦痛や危難が身にせまること。なやみ苦しむこと。


(2)事態がさし迫ること。特に、生活がつまって余裕のなくなること。困窮すること。

需要量と供給量に余裕が無くなる……って私にはよく意味が分かりませんが、
たぶん需要量と供給量が近づくっていう意味かと思います。



でも経済学における一番単純な市場のモデルでは、
価格が変化する事によって需要量と供給量が近づいて
一致する(=均衡する)のは、自然な流れだと私は理解しています。
(私は経済学の入門コースの教科書を最後まで読み通せていないので
 こんな事を私が偉そうに言うのは非常におこがましいのですが)




例えば、ある商店街に同じ商品を取り扱っているお店が3軒あったとしたら、
サービスレベルとかブランド力とかを無視すれば、
基本的には3軒のお店とも商品の値段は同じになります。



そして、お店側で設定した値段がやたら高いと、
買ってくれるお客さんもリッチな人だけなので、
商品は売れ残ってしまいます。
このときの価格では、売りたいし、売れる量数(供給量)が
買いたいし、買える数(需要量)
をオーバーしてしまっているのです。
そしたら仕入れ代金や製造コストなどが無駄になってしまうので、
お店側はしぶしぶ値段を下げます。
お店側で商品が売れ残っている限り、
お店はよその店よりも高くならないようにします。
よそより高かったら、お客さんはそっちの店に流れてしまうからです。



また逆に、安売り競争が激しくなって価格が馬鹿みたいに安くなったら、
あんまりお金に余裕のないお店は価格競争についていけなくなって、
「そんな安い値段じゃうちんとこはやってらんないよ」と言って
お店をたたんでしまいます。
その結果、その商店街で売る店は3軒から2軒に減ってしまい、
商店街全体で販売できる商品の数は減ってしまいます。
その一方で、安くして大セールをしたら、
普段買わないお客さんも商店街にやってきて我先に買っていきます。
そしたら、せっかく買いたいお客さんはいるのに商品が不足してしまいます。
このときの価格では、需要量が供給量を超えてしまうのです。
こんな風に商品の数が不足している時には
お店は利益を増やすために、商品が売れ残るギリギリのところまで、
もっと値段を吊り上げます。



かなり適当ですが、単純なモデルでは、こんな感じで
お客さん達の欲しがってる数の総量(需要量)と
お店側の売りたい数の総量(供給量)が均衡するように、
価格が高くなったり安くなったり変化して調節します。




むしろ需給が一致しないということは何らかの理由で
市場メカニズムがうまく作動せず、価格が中途半端にしか
変化できないということではないでしょうか。




で、実際に日経新聞での使われ方を見ると、
例えば、昨日(1/17)の日経朝刊3面にも、ライブドア社がらみで、
株式分割が次の様に解説されていました。



ライブドアは2003年8月から約1年間の間に1株から100株への株式分割など累計で1万分割実施。分割自体は違法行為でなく企業価値を高めるものでもないが、分割手続き中に株式の需給の逼迫(ひっぱく)を招くため、大型分割は一時的な株価急騰を招く事も多い。


Q どうして株価が急騰するのか。


A 株式分割では企業価値は変わらず、発行済み株式数が増える分、理論上は1株の価値である株価は下がる。100分割の場合、もとの1株に99株の分割新株が加わり、株価は100分の1になるはずだ。


 だが分割に伴う新株発行には50日前後必要で、当時は発行されるまで、新株を売りたくても原則売れなかった。100分割の場合、1株に対し、実質的に99株が市場に存在せず、流通株数が一時的に極端な品薄状態になるわけで、何らかの材料が出て買いが入れば、株価は急騰しやすくなる。

この説明では慎重にも、「株価急騰を招く事も多い」とか
「株価は急騰しやすくなる」と、必ず急騰するとは書いていません。



あとWikipediaではこんな説明。


株式分割
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A0%AA%E5%BC%8F%E5%88%86%E5%89%B2


100分割の場合、1株持っている人のところには99株が
新しく発行されてただでプレゼントされるようです。
でもこの新株が届けられるまでに50日間もかかってしまうので、
このタイムラグがポイントのようです。



ですが私が気になってるのは、ここでも使われている
「需給の逼迫」という言葉です。
私は株式についてはまったくの素人なので適当ですが、
例えば100分割の場合、上記の日経の説明を読んだだけでは、
理論上は株式数が100倍に増えているのに、
実際に株主の手元にあって売買できるのは
50日間は元の数のままなので、そのギャップによって
株価が高騰する可能性がある、という事かと思います。



でもこれって、株式の供給量は変わらないのに、
需要量は一時的に増える余地が生まれるという事ではないでしょうか。




株式の事は私にはよく分からん事が多いので、
以前の記事でも「需給の逼迫」という言葉が無いかなーと思って
調べてみたら、1月7日の日経朝刊の商品欄に、こんな記述がありました。



石油情報センターが6日に発表した灯油の給油所店頭価格(全国平均、4日時点)は前週比22円高の1缶18リットル1,302円だった。3週連続の最高値更新となる。寒波による需要急増で需給が逼迫(ひっぱく)、石油各社が1月出荷分の卸値を1円強引き上げた事も影響している。

単純にいえば、(この記事における)前週では
1缶当たり1,280円という値段で、
買いたい人の総量(需要量)と給油所の売りたい量(供給量)が
一致してたのです。
それが、今週はますます寒くなったとかで、需要量が増えたため、
すると給油所は値段を吊り上げます。
(コストが上昇したというのもある)
そうすると値段が高くなった分、「じゃあいらねー」とか
「金が無いから買えません」とかで、需要量は少し減ります。
その一方で、給油所のほうでは高く売れるんだったら
もっと仕入れてきてたくさん売ろうとします。
ので供給量が少し増えます。
そんな感じで、寒い冬という外部要因によって生じた
需要量の増えた分のギャップを、
価格が上昇する事によって需給を歩み寄らせ、
新しい均衡点を作るのです。
この例の場合、価格は22円上昇したところで、
需要量と供給量が一致した事になります。




これらの日経新聞での株式分割と、
厳寒による灯油価格上昇の2つの記事では、
要するに、需要量が増えたから価格が上がった(もしくは上がる可能性がある)
と言いたいのだと私は思います。
だったら「需要が増えて価格が急騰」と書けば良いと私は思いました。



もう少し詳しく書くなら、
「(寒さとか株式分割などの外部環境によって)需要量が一時的に増えたので、
 それによって生じた需給のギャップを均衡させるために、
 市場価格が上昇することによって、
 今までより高い価格&今までより多い取引量のところで
 この商品の需要量と供給量は均衡した。」
というところでしょうか。



で、まあたらたらと書いているうちに
何がいいたいのか分からなくなってきたのですが、
なんで「需給が逼迫」という言葉が流通しているのかについても
私は気になります。
なぜなら、私自身は今まで特に疑問にも思わずスルーしてきたからです。



私が思うに、「需給が逼迫したから価格が上昇」という
言葉を使う人の思考では、供給量が一定で変化しないという
ビジョンがあるんではないかという気がします。
限られた供給量のMaxがあって、そこに需要量が増えて近づいていく
というイメージなのではないでしょうか。
在庫がどんどん取り崩されていく、とか。
風呂の水があふれちゃうよ〜みたいなニュアンスでしょうか。



そういう意味では、企業はたいてい予備の在庫を確保してるもんだろうし、
現場の感覚ではリアルなイメージなのかもしれません。



なんかよく分からなくなってきた。



ついでに書くと、他に日経で私が気になる言い回しとしては、
体言止めの頻出とか、「奏功そうこうする」とかがあります。
日経社内の文化なんだろうか。